STORY
家の数だけ、そこに暮らすご家族の想いがあります。
私たちがこれまでであってきたお客様の、物語の欠片をお伝えします。
刻を移す
刻を移す
解体の打ち合わせに行ったときのお話です。
お住まいになっていた家を建て替えする計画でしたので、古い家は当然解体されることになります。現場を確認中に居間の柱になにかが書いてあるのを見つけてしまいました。黒い柱に目を凝らすと、サインペンで沢山の線と日付が書いてあります。そうなんです『あの』成長記録です。
瞬時に『移設』の二文字が脳裏に浮かびました。
私辻井の祖父は(借家なのにも関わらず(笑))茶の間の柱に私たち孫の成長を刻んでくれました。背が大きくなるだけで褒めてもらえたので、私にとってはたまらなく楽しい思い出の詰まった柱です。祖父の住んでいた家は解体されてもう有りません。柱は木のごみなのですが、解体される時が判っていれば残しておけたのに・・・と、今でも悔やまれます。
移設すると決めてしまった私に対して、お客様は『大変だったら結構ですよ~』と言って下さいましたが、もう決めていた私は、『あ~はいはい、大丈夫です~!』と一人でテンション爆上げでした(笑)
なんとなく簡単に考えていましたが、現地から引き揚げてからの清掃と補修に2時間くらい掛かってしまいました。ですが、作業中はきっと喜んでもらえると思うと、わくわくして仕方なかったです。
ただ、柱を持って帰って来る時に、出張っていた釘が有り、自家用車の(付けたばかりの)シートカバーに釘の穴がぶっすり開いてしまいました(泣)
穴を見るたびにこのエピソードが思い出せるので、ある意味良かったのか?
プライスレス万歳。
JなのかMなのか
JなのかMなのか
難解なご要望が好きです。
辻井の性格がドMな訳ではなく、難しいご要望や、変形敷地のご依頼など、難題を抱えた物件の方が、解答も様々なパターンが考えられますし、設計の能力も問われますので、結果的に差がわかりやすくなります。
真剣に取り組んだプランには差が出るが故に、ATTICの設計に興味も持っていただけますので、ご契約いただける確率が高いお仕事だと思えるからです。
さて、お客様とお会いした時点で、すでに数社のご提案は出ていた様なので、後発のプランになりました。お客様も伝えるコツが分かってくるのでヒアリングは若干有利です(笑)
ATTICが作ったヒアリングシートに基づいて一般的な事項を一通りお伺いした後に、『変な事を言うかもしれませんが・・・』・・・と前置きしたうえでお客様がこうおっしゃいました。
『無理かもしれませんが、家を上空から見た時に、家のカタチをご主人のお名前のイニシャルの 『J』 にならないか』・・・と。
心の中で言いました。『きた!(笑)』
『面白いと思います!』と、目を輝かせた辻井でした。
それを見て『以前打ち合わせしていた他社の設計さんには、鼻で笑われたんです。』と、苦笑いされていました。
後日お伺いしたところ、この時点で、ほぼ弊社とのご契約を決めて頂いたとお伺いしました。ともかく、誰にも出来ないプランを考え出せる可能性が高くなりますので、『遣り甲斐が有る!』と目を輝かせただけだったのですが、なんとも面白いタイミングです。
ファーストプランは、中庭を抱えた回遊性の有る案。最終プランはコストダウンの為に中庭を無くしてコンパクトなプランにして落ち着きました。中庭は無くなりましたので、屋根の瓦の色を変えてうまく処理しようと思いつきました。瓦の位置を全て図面に起こして、一枚ずつ場所を指定し、上空からは『J』に見える様に施工しました。
しかし、問題が一つ残りました。オーナー様が、『J』を自分で見られない事です。
でも、お客様にとっては最初から問題は折り込み済で、デッキなどの外構が完成した暁には、探偵ナイトスクープに応募して、問題を解決してもらおうと思っておられました。・・・当時は。
予算の関係でデッキが後回しになって、はや9年経ちました。先日お電話で『今年こそするで!』と仰っていましたが、 9回近く聞いた気がしなくもないです(笑)
ただ、時が経つとITなどの技術革新が起こりますので、思わぬ事がおこります。当時は無かったグーグルアースで意図も簡単に上空から確認出来る時代がやってきましたので、ナイトスクープに頼まなくてもよくなってしまいました。
なんという事でしょう。めでたしめでたし。
現在のgoogleアースからの画像(加工無しです)
完成予想googleアース写真。
釣果
釣果
プランニングの前に色々な事をお聞きすることをヒアリングと言います。
ご希望や趣味、嗜好などをお聞きするのですが、ご主人とは釣りという共通の趣味がありました。
私の理解が浅い趣味の場合は細かい事まで教えてもらってプランニングするのですが、釣りならば経験がありますので理解がしやすく、自分の家のようにプランニング出来ました。想像が容易でしたし、プランニングの中に自分なりのアイディアも入れられましたので、より良いご提案も出来ました。
お引渡しから少し経った頃、竣工した家にお伺いした際にご主人がガレージで複数匹の天然の鮎に串を打って炭火で焼いておられました。
その鮎は、高級料亭に卸されているものよりも山奥で釣ってきたの物なので、味がまったく違うんですよ・・・と仰っておられたので、さぞ美味しいのだろうと思って焼ける良い匂を楽しんでいたところ、なんと焼きあがった鮎を全部くださいました!
貴重なものなので、てっきりご家族で食べられるとばかり思っていたので、びっくりしましたが、遠慮のない辻井は、ありがたく焼きたての鮎を頂きました。
今までの鮎はなんだったのかと思うほどの味の違いに驚愕です。
思わず鮎釣りをはじめようかと考えてしまった辻井の表情を読み取りったお客様は、引き船(鮎の入れ物)あげましょうか・・・と悪魔のお誘い(笑)
竿の値段や、装備のお話を細かく聞いて真剣に検討しましたが、当時はアオリイカ釣りにはまりだして道具を揃え始めたところだったので、なんとか踏みとどまって自制しました(笑)
お客様はアオリイカ釣りも上手で、沢山の釣果をLINEで送って頂いたりするのですが、私にはなかなかそんなには釣れません。
そういえば、私の交友関係に釣りが趣味のお客様や職人さんが何名かおられるのですが、よくよく考えてみると、全員が私よりかなり上手な事に今気が付きました。
・・・・・・・・・・・・・いや、いいです。(←ナニガ?)
設計しか得意ではない辻井でした。
玄人好みのデティール
玄人好みのデティール
『はじめまして、今からお伺いしても良いでしょうか?』・・・と、お電話を頂きました。
その頃は自邸の一部を事務所にしており、来客の頻度もそれほどではなかったので、そこそこ散らかっていました。大慌てで片付けてお越し頂きました。
その日はたまたま自邸におりましたので、ほんとに良かったです。これもご縁でしょうか。
ご主人は男性だからか、私の為だけに設計した、かなり尖った設計の私の自邸に強い興味と関心をもって頂きましたが、心配り細やかなタイプの奥様は、あまり目立過ぎる家に対して少し不安を持っておられました。(窓も屋根も見えないあの外観を見たら普通はそう思いますよね(笑))
設計は土地探しからのお付き合いになったのですが、設計のコンセプトを先に話し合った結果、四角く整形な土地には目もくれず、どこかに目線の抜けや解放感の有る土地を根気よく探す事になりました。
そんな中、少し小さく見えましたが、道路の向かい側に川の有る開放感と抜けの有る土地を発見したときは、ここで間違いないでしょうと、お客様と意気投合して盛り上がってしまいました。
次々とアイディアが閃きましたので、プランも一気に仕上がりました。
空間構成は複雑ですが、奇異の目線で見られる様な外観を避ける代わりに、プロが見ればわかる玄人好みのデティールを集積させたデザインをちりばめました。
ご主人とは年齢も職業も全く違いましたが、私の設計に対する思いを細かく聞いて頂き、深く理解してもらえたので、毎回打ち合わせが楽しかったです。
その日の打ち合わせを終わってからもデティール(細部の作り方)はなぜそう作るのかとか、本来設計者同士がする建築談義の様なことをしていたものですから、毎回夜遅くなってしまいました。
大変興味深く聞いていただけた感じがしたので、ついつい話が長くなってしまい、夜9時頃仕事から帰ってきた家内に、『あんたまだやってんのかいな、あんたの話が長すぎるから帰り辛くなってはるやんかいさ』・・・と毎回怒られました(汗)
今考えるとマニアックなお話を延々聞いてもらった気がしますので、少し申し訳なかったです。
でもやっぱり、『細部に神が宿る』のだと感じます。
これは建築家の巨匠、ミース・ファンデル・ローエの残した言葉ですが、デティールの集積が美しさの源になると信じて仕事に興じている辻井でした。